退職に添えて
足掛け7年在籍した職場を退職した。
正直、今はまだいつもと同じ週末を迎えただけという感じで実感がないけれど、今の思いを書き残しておきたいと思う。
まず、よくこんなに長く働けたな、というが素直な感想。希望の職種ではなかったし、仕事内容もいまいちピンと来ず、会社の雰囲気も合わなさそうだったので、入社当初はもって2年くらいかなと漠然と考えていたが、思いのほか長く勤めることが出来たので自分でも驚いている。
入社して2年半で、直属の上司が相次いで退職したために部のトップになった。4年めからは役職にも就き、残業なしで繁忙期を乗り切るという会社始まって以来の偉業も達成したが、一方では常に退職のタイミングを図っている自分もいた。実際に退職の申し出をしたのは3年めの終わり頃だった。3年働けばとりあえず採用してくれた恩義には報いたことにはなるだろうと思ったからだが、その時は後任がいないということで預かりとなった。
正直、居心地はよかったのだ。
年長者で社内唯一の役職についている身分だったので、ある程度のことは自分の好き勝手に行うことが出来た。職場の人間関係も、同僚の枠を超えた深いつながりを築くことが出来ていた。また、待遇面でも沖縄県の平均所得を上回っていた。県内ではめずらしく週休2日制だったし、有休も取れた。不満はなかった。このままずっといるのかな、という漠然とした考えに陥ったこともあった。
しかし、致命的なことに業務内容には一向に興味を持てなかった。どんな業務でもある程度そつなくこなすことが出来るようにはなったものの、仕事に対する興味や追求心はまったくといっていいほど湧いて来なかった。つまり、仕事内容が好きじゃなかったのだ。
好きじゃないことをしてお金をもらうのが「仕事」とは思うけれど、自分の場合そこまで割り切ることができず、いつか破綻することが目に見えていた。
一度の人生、そして仕事はたぶん一生。もっとやりたいこと、自分に合ったことを見つけなければという念に駆られた結果、後ろ髪を引かれながらもようやく退職という苦渋の、本当に苦渋の決断をすることが出来た。居心地の良い世界から、茨の道へ逆戻りである。いや、進歩だと思いたい。
退職を決めていちばん良かったと思うことは、自分がまわりの人間から意外と信頼を得ていたことがわかったことだ。
自分の人生を振り返ってみても、正直、たいした生き方をしてこなかったことは誰の目にも明らかで、 常に自分を中心に据えた生活を送っていた。早い話、好き勝手にやってきたのだ。だから友だちも少ないし、友だちを作ろうという気概もない。他人とのコミュニケーションは極力避けてきた。しかし、同僚はもちろん、顧客からも一定の評価を得ていたことが、退職の挨拶をした時にわかった。長年忘れていた、人の温かみを感じたのだ。
もちろんそれらはすべて寂しさと悲しさをいっそう高まらせることとなったが、自分の存在意義を少しだけ見出せたと思う。配慮してくれる会社、温かい言葉をかけてくれる顧客、自分の退職を惜しんでくれる同僚。すべての優しさが自分には余りあるものだった。それがわかっただけでも、この退職には価値があった。
次の道は決して平坦ではない。だけど、今の自分がいちばんやりたいことであることは確かだ。1秒たりとも無駄にはせず、一日も早く夢を叶えるように努力していきたい。
唯一の心残りは、すばらしき同僚を失うことだ。
ただ、彼らは自分の退職と同時に、同僚からすばらしき友に変わった。