来沖10周年

 2003年3月2日に沖縄に来てから、今日でちょうど10年になりました。当初は2ヶ月だけのロングバケーションだったはずが、気が付けば120ヶ月が経過。早いものです。もう10年、という感覚があるのと同時に、まだ10年かと思う自分もいます。

 10年前、悲壮な決意を胸に来沖したとき、沖縄ではSARSの流行が懸念され、世界ではイラク戦争が始まり、音楽は宇多田ヒカルの『COLORS』や、デビューしたばかりのEvanescenceがよく流れていました。こうして書き出してみると、どれもつい数年前のことのような気もしますが、時間は確実に流れています。

 自分の沖縄生活は、ゲストハウス時代、ルームシェア時代、一人暮らし時代、結婚時代の4期に分けることができます。もっとも印象的だったのはゲストハウス時代ですが、期間でみるとわずか7ヶ月。たった120分の7。ですが、沖縄生活においてだけでなく、人生において非常に貴重な経験を積むことができた濃密な時間となりました。自分の友人の半数くらいはこの期間に出会った人たちです。

 ゲストハウスでは毎日が非日常。出会いと別れの連続の中、一日たりとて同じ日はありませんでした。この経験が自分の人格形成に大きく関わったことは間違いありません。もしこの期間がなければ、今よりもずっとつまらない人間のままだったと思います。他人から受ける刺激は本当に貴重です。

 ルームシェア時代には3名の友だちとルームメイトとして過ごしました。もちろん今でも大切な親友です。住む場所はみんな離れ離れになってしまったけど、ゲストハウス時代とはまた違った楽しさがあったこの頃のことは決して忘れることができません。

 おかげで次の一人暮らし時代には常に寂しさがつきまとうこととなりました。よくよく考えると、この時が人生はじめての一人暮らしでした。それまではずっとにぎやかな環境に身を置いていたので、その落差に慣れるまでは時間を要しましたが、一人には一人の気楽さもあり、孤独に耐えつつ外へ外へ気持ちを向けるという人間本来(?)の生き方を実践できるようになった時期だと思います。

 そして、今も続く結婚時代。改めて振り返ってみて、実に10年のうちの約半分が結婚時代に当たることに驚きました。そんなに長いのか、という感じ。それまでの時間に比べて刺激は少ないですが、この安定こそが自分がずっと求めてきたものかもしれません。

 4つの時期それぞれに幸せがあり、不幸せがありました。ただ、どれだけ悪いときでも、いつもまわりの人たちが自分を救ってくれました。沖縄の魅力は海や空などの自然だけではありません。自分が思う沖縄の最大の魅力は「人」です。気候も暖かいですが、人はそれ以上に温かいです。

 人間は、他人からの刺激こそが最大の成長材料なんだと思います。誰と出会い、誰と過ごし、誰と争ったか。誰に憧れ、誰に惹かれ、誰を反面教師としたか。そういった経験が人格を形成していきます。誰かと出会う度に研磨されていくのであれば、出会いの数が多いほうがいい。おかげさまで沖縄に来てから、本当にたくさんの人たちと触れ合うことができました。この事実こそが、自分のこの10年間の最大の収穫であり、最大の意義だったのだと思います。

 

 最初は「ハイサイ」ですら口にするのが恥ずかしかった自分も、今では最低限のウチナーグチは使いこなせるようになりました。沖縄の人だと思われることも少なくありません。10年の時が経過して、少しはウチナーンチュに近付けたでしょうか。自分も誰かの刺激になれるように、次の10年を過ごしていけたらいいなと思います。