夏休みの終わり

 本試験後の三週間は、人生で初めての何もしなくていい期間だった。勉強もしなくていいし、仕事もしなくていい。好きな本を読んだり、映画を見たり、運動をしたり、遊びに行ったり、とにかく自由に過ごすことができた貴重な時間だった。

 もちろん、何もしなくてもいいというのは自分で勝手に決めたことであって、本当は働かなくちゃいけないし、勉強もしなくちゃいけないし、一日でも早く社会の歯車として復帰しなくちゃいけない立場ではあるんだけど、それを許してくれる環境に恵まれていたおかげで約三週間、自由気ままに過ごして、勉強漬けだったこの20ヶ月分の鬱憤を晴らすことができた。いや、本当を言うとまだ全部は解消できてないかもしれない。でも、休むことにも飽きてきたので、ここらで休息に終止符を打ちたいと思う。夏はまだ続くけど、夏休みはもう終わりだ。

 

 この貴重な期間をどう過ごしていたか、書き残してみようと思う。自分でも忘れかけていたけど、このブログは勉強の記録ではなく、あくまでもライフログなのだ。

 まず、最初の一週間はとにかくDVDを借りて見ていた。やりたいことはたくさんあったはずなのに、燃え尽き症候群のせいか、はたまた試験の結果に気落ちしていたせいか、能動的な趣味はいっさい手を付けることができなかった。小説を読むためには本を開く、ページをめくる、文字を目で追うなどの行動を自発的に行わなければならないが、DVDは再生ボタンを押すだけであとは受動的に完了に至る。

 余談だけど、この経験から僕は「誰かを励ますときに本を送ってはいけない」ということを学んだ。元気がない人はそもそも本を手にすることができないのだ。贈るならDVDのほうがいい。できればプレイヤーにセットし再生ボタンを押すところまでしてあげればベストだ。落ち込んでいる人自身の能動的な行動を伴わなければならない応援はあまり意味がない。

 翻って、じゃあ自分は落ち込んでいたのか、ということになるけれど、やっぱり落ち込んでいたんだと思う。気持ちだけは前向きに保っていたつもりだったけど、空元気だったのかもしれない。まあ落ち込まないほうがおかしいではあるんだけど。

 まあそれはそれとして、今回見た中では、エドワード・ノートンの『ファイト・クラブ』がおもしろかった。自分は期せずして、そして奇跡的に『真実の行方』を見たあとに『ファイト・クラブ』を見たんだけど、よくあるオチとはいえ、見せ方は良かった。ブラピの映画にハズレなし!

ファイト・クラブ [DVD]

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 そして、『ファイト・クラブ』よりもおもしろかったのが、『スラムドッグ$ミリオネア』。プロットを聞いただけでは正直つまらなさそうな映画だな、と思っていたけど、百聞は一見に如かず。非常によくできたシナリオで、いつの間にか映画の世界に入り込んでいる自分がいた。ケチを付けるとすれば、最後の問題の難易度が低すぎる、という点だけど、これも伏線の回収。アカデミー賞受賞作品だから多くの人が見たことがあると思うけど、もしまだ見ていないのであれば、ぜひおすすめしたい一作。

スラムドッグ$ミリオネア [DVD]

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 半強制的なDVDリハビリが効いたのか、次の一週間ではようやく小説を読めるようになり、図書館にも足を運ぶようになったし、Kindleの中の蔵書も一気に増えた。

 読了した中でもっとも印象に残ったのは遠藤周作の『沈黙』。信者が苦しんでいるときにも、神はなぜ沈黙を続けるのか、という宗教と信仰を考えるときに誰もが抱く疑問をテーマにした歴史小説。実在の人物をモデルにしている。

 自分は無神論者だけれども、宗教自体は否定しない(強引な勧誘活動は否定するけど)。また、カトリック系の学校に通っていたのでキリスト教についての素養は少しある。なので、比較的すんなりと物語に入っていけたのだけど、宗教に興味がない人にも勧められる一冊。文体も丁寧で読みやすい部類だと思う。

沈黙 (新潮文庫)

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 文化的な行動だけではなく、休止していたウォーキングも再開した。一日一時間程度だけど、いちばん気温が高くなる午後二時頃の炎天下を毎日歩くようにしている。熱中症待ったナシ!って感じだけど、水分・塩分補給を欠かさないようにして、なんとか体調はキープ(日焼けはしたけど)。もっと涼しいうちに歩けばいいのに、と言われるけど、もしかしたら身体を傷めつけたいという願望があるのかもしれない。危ない自傷行為(笑) たぶん、あえて厳しい状況に身を置くことで同時に精神を鍛えようとしているんだと思う。マゾになったのではない(はず)。

 

 二週間目の終わりにはLECの慰労会があった。正直、参加するかどうか直前まで迷っていたけど、結果的には参加してよかった。やっぱり仲間というのはいい。彼らはライバルではない。誰かが受かったからといって、それが自分の合否に影響するわけじゃないのだ。情報交換しつつ、叱咤激励しつつ、下世話な話をしつつ、互いに研鑽しあえる仲間だということを再認識した。

 基準点を突破している人が数名いたけれど、さもありなんという面子。自分も来年その位置にいようと強く決意した。

 翌日はLECで根本講師の来沖生講座。Webで見るとおり、もしくはそれ以上のアツい人だった。そして、優しい。声は大きいけど、受講生に対する情愛で満ちあふれていると思った。経済的な余裕があれば、根本講師の講座を受けてみたかった。

 

 というわけで、いよいよ二年目の勉強がスタート。兼業受験生になるので取れる勉強時間は一年目の半分以下になってしまうけど、それを嘆いてもしかたがないので、自分が置かれた環境の中でベストの結果を出せるように努力したい。