このすばらしい監督は、もう映画を作らないのです。たぶん。

 スタジオジブリ宮崎駿監督が長編映画作成からの引退を発表した。

宮崎監督「公式引退の辞」全文

http://www.nikkansports.com/entertainment/news/f-et-tp1-20130906-1184931.html 

 ジブリファンのひとりとしては非常に残念ではあるが、昨日の会見での宮崎監督のすがすがしい表情を見て、「もっと作ってほしい」という自分のわがままは心の中にとどめておこうと思った。仕事はまだ続けるとのことだが、ひとまずおつかれさまでした。

 自分のジブリ映画の原体験は、金曜ロードショーの『天空の城ラピュタ』だった。VHSに録画をして、何度も何度も繰り返し見た。それこそテープが擦り切れるほどに。おそらく通算50回以上は見ていると思う。今でも年に1回は見返している。もちろんこんなに数多く見た映画は他にない。ラピュタの内容についていまさら語ることもないが、ストーリーも音楽もキャラクターもすばらしいこの映画をいまだに見たことがない人は不幸だし、楽しみを残しているという点では幸せでもある。

 その後、『カリオストロの城』『風の谷のナウシカ』に立ち戻ったあとはリアルタイムでジブリを、そして宮崎駿を体験していった。それぞれの作品に思い出がこびりついているが、中でも自分が好きなのは『もののけ姫』だ。宮崎駿の原点のひとつとも言えるナウシカを昇華させたかのような内容は、当時の引退宣言とも相まって、ひとつの終着点として高い完成度を誇っていると思う。

 昨日の引退会見では、「『ハウルの動く城』がトゲのように残っている」など興味深い話がたくさんあったが、自分が印象的だったのは、奥さんが作る弁当の話だ。宮崎監督は作品作りに没頭するあまり食生活が乱れ、一時は体重が70kgを越えてそれこそ豚みたいになったことがあったという。その後、外食を控えるようになり、奥さんに弁当を作ってもらい、一日三食をとるようになった結果、現在の健康的な体重に戻ったという。非凡な才能の陰に奥さんの支えあり。奥さんの内助がなければ数々の名作は生まれていなかったかもしれない。

 宮崎監督が引退するのはあくまでも長編作品からであって、仕事を辞めるわけではない。これからもなんらかの形でこの世は生きるに値するんだというメッセージを送り続けるだろう。宮崎駿のこの強烈な意志を、受け手である自分は活かせるだろうか。数多くの作品を見返し、もう一度自問してみたい。