初心者へのプレゼントに最適な万年筆

初心者へ万年筆を贈る際には注意が必要だ。というのも、どの万年筆を贈るかでその人の万年筆に対する印象が決まってしまいかねないからだ。つまらない万年筆を贈って「万年筆ってこんなものか」と思わせてしまってはプレゼントとしても失格だし何より万年筆に対して失礼だ。万年筆を贈るからには、相手に万年筆の良さを知ってもらい、さらには日常的に使ってもらえるレベルを目指したい。その後、相手が自発的に万年筆を購入するまでに至れば、そのプレゼントは百点満点だったと言えるだろう。

では、どのような万年筆がプレゼントに向いているのかと言えば、ずばりPILOTのコクーンである。

パイロット 万年筆 コクーン FCO-3SR-LF 細字 ブルー

パイロット 万年筆 コクーン FCO-3SR-LF 細字 ブルー

 

まず、万年筆らしからぬ洗練されたデザインに目を行くが、ポイントはその重量である。他の筆記具と違い、万年筆は少し寝かせて弱めの筆圧で書く必要があるが、これが慣れるまではなかなか難しい。しかし、コクーンは約24gとけっこうな重みがあるので、その自重により最初から無理なく自然に文字を書くことができる。

また、定価は3,000円と、万年筆としてはリーズナブルだが安っぽさは感じられない。プレゼントとしてはちょうど良い頃合いだろう。書き味も安定のPILOT品質である。

 

と、これで終わりではない。大事なのはここからだ。

コクーンがどれだけいい万年筆だとしても、これ単体では万年筆の楽しさを知ったことにはならない。やはり万年筆の魅力はインクの世界に足を踏み入れてこそ知ることができる。よく"沼"にたとえられるように、インクの世界は相当に深く、そして広いが、幸いにしてPILOTには『色彩雫』シリーズという世界に誇れるインクがあるので、そこから選んでおけば間違いない。

個人的にはコクーンには『月夜』を推したい。夜空のブルーブラックにかすかに月のイエローを溶かしたかのような、絶妙な色合いである。ボトルを置いておくだけでも絵になる。

予算が許せばミニボトルのセットもおすすめだ。店頭でなら全24色の中から好きな3色を選んで買うことができる。相手の好みにもよるが、『月夜』『松露』『紺碧』『冬柿』『深海』あたりがイチオシだ。 

 

そして、もうひとつ忘れてはいけないのがコンバーターである。これがないと、ボトルインクを気軽に楽しむことができない*1。 

コンバーターをクルクルと回してインクを吸入する楽しさを知ったらもう後には戻れないだろう。

 

以上、コクーンが3,000円、色彩雫のボトルインクが1,500円、コンバーターが500円。しめて5,000円(税抜)である(色彩雫のミニボトルセットにした場合は5,600円)。ちょっとしたプレゼントとしてはちょうどいいくらいの予算ではないだろうか。

PILOTにはさらに廉価のカクノというヒット商品があるが、コストパフォーマンスはよくてもプレゼントとしてはやや弱い。数本をセットにして贈るという手もあるが、万年筆を使ったことがない人が突然たくさんもらっても戸惑うだけだろう。

コクーンと同じ価格帯のプレラは贈る相手を選ぶだろう。色彩雫との相性はいいが、軸が短いので手が大きい人には不向きだ。

 

プレゼントには向いていない万年筆もある。いわゆる黒と金の仏壇カラーの典型的な万年筆である。「万年筆」と聞いたらほとんどの人が真っ先に思い浮かべるタイプのものだ。ひとつ断りを入れておくが、仏壇カラーの万年筆はすばらしいものであることは間違いない。マイスターシュテュックは言わずもがな、カスタム74もプロフィットもセンチュリーも、どれもすばらしい万年筆であることは誰もが認めるところだろう。自分も仏壇カラーの万年筆は4本所持しているが、すべて気に入っているものばかりだ。

しかし、万年筆に慣れ親しんでいない人はこうした典型的なデザインを敬遠しがちなうえ、どれも出来がいいのでその1本だけで満足してしまうおそれがある。ささやかなプレゼントであるならば、万年筆の世界の入口まで案内する程度にとどめ、あとは本人に自由に歩いてもらう、くらいの感覚がいいのではないだろうか。 

万年筆の教科書 (玄光社MOOK)

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*1:一応カートリッジにインクを注入するという方法はある。