初めての金ペンにおすすめしたい万年筆

PILOTのカクノが火付け役であることは間違いないですが、最近は5,000円以下で買える低価格万年筆が複数の雑誌で取り上げられるなど、ちょっとしたブームになっています。前述のカクノをはじめ、LAMYのサファリ、プラチナのプレピーなど、優秀な低価格万年筆はたしかにたくさん存在しますが、それらで万年筆の魅力にとりつかれた人は、次の段階として、ペン先が金でできたいわゆる金ペンに興味を持つ人も少なくないと思います。しかし、金ペンの世界は低価格万年筆よりもずっと深く広いうえに、価格がヒト桁違うので気軽に買うというわけにもいきません。

指針のひとつとしては、国内メーカー三社のスタンダードモデルを選ぶという手があります。具体的にはPILOTのカスタム74、プラチナの#3776 センチュリー、セーラーのプロフィットスタンダードの3本です。これらの万年筆はどれも書きやすく、コストパフォーマンスはかなり優秀です。買って損のないハズレの少ないモデルだと言えます。しかし自分はあえてもうひとつ上のランクのPILOTカスタムヘリテイジ92を強くお勧めします。

万年筆 カスタムヘリテイジ92 スクリュー式 FM(中細字) FKVH15SRSNCFM
 

推す理由のひとつは、回転吸入機構を採用しているという点です。一般的に万年筆はカートリッジを使うかコンバーターを使うという方法でインクを補給しますが、カスタムヘリテイジ92はこの価格帯ではめずらしく回転吸入機構を採用しています。簡単に言うと、尻軸を回転させピストンを上下することによってインクを吸入するという文字通りの機構なのですが、高級万年筆で多く採用されている回転吸入機構を定価15,000円の万年筆で味わえるのは貴重ですし、洗浄も楽しいです。また、インク容量も大きいのでインク切れの心配が少ないというのもポイントです。

透明軸である点も大きな魅力です。万年筆にハマった人が必ず一度は通る道、それがインク沼。うまく避ける人もいれば、そのままズブズブと沈んでいく人もいます。溺れる者は藁をも掴む、と言いますが、インク沼で溺れる人は透明軸の万年筆を掴みます。世の中には透明軸の万年筆は数あれど、実用的な金ペンとなるとそれほど選択肢は多くありません。その中でカスタムヘリテイジ92を特に推す理由は、回転吸入機構のため外部とインクの間には壁一枚の隔たりしかないので、二重構造になってしまうコンバーター式の透明軸万年筆(例えばカスタム74など)に比べてインクの視認性にすぐれ、よりきれいに見えるという点です。

線幅は中細字のFMがおすすめです。鉄と金の違いがあるとはいえPILOTのFとMは低価格万年筆にもある線幅なので重複する可能性があるし、何よりPILOTのFMは非常に使い勝手がいいです。ある程度の細い字も書け*1、インクの濃淡も出せます。もっとも、「自分は手帳に書き込みたいからもっと細いほうがいい」とか「ヌラヌラしたいからもっと太いほうがいい」という人もいるかと思います。でも、大丈夫。金ペンを1本買ってしまったら、近い将来必ず2本め3本めを買うことになるので、それらは次のお楽しみにとっておけばいいのです。

 

以上がカスタムヘリテイジ92を推す理由です。せっかくの金ペンなのだから、低価格万年筆の延長線上にあるものではなく、金ペンならではの個性をもった万年筆を選ぶのもまた一興だと思います。自分もカスタムヘリテイジ92を最初に買いましたが、金ペンを複数本所有するようになった今でも使用頻度は非常に高いです。

万年筆 for Beginners (100%ムックシリーズ)

万年筆 for Beginners (100%ムックシリーズ)

*1:5mm方眼に「躊躇」という漢字を書いてもつぶれない